1.交通事故に遭い、幸いにして怪我がなかったとしても、自動車の修理についての問題は避けて通れません。車は、修理をすれば綺麗にはなりますが、事故で、俗に言う「キズモノ」にされたのだから、修理代を払ってもらっただけでは納得できないと考える人もいるでしょう。これが、評価損や格落ちといわれる問題です。
2.事故で被った損害を加害者に請求できるのは、加害者が不法行為に基づく責任(民法709条)を負うからであり、交通事故によって交通事故の前よりも、自動車の財産的価値が下がったということができれば、その下がった分を賠償してもらえます。
思い入れのある車を壊され、慰謝料を請求するということも考えられなくはないのですが、裁判所は、物を壊されたという精神的苦痛に対する慰謝料の支払いを、基本的に認めません。
3.これを前提として、どのような場合に評価損の請求が可能なのか、考えてみます。
① まず、適切な修理をしたが、技術的限界から、性能や外観が事故前よりも低下した場合には、それによって価値が下がった分の請求は可能と考えられます。人間でいう、後遺症が残った場合に似ています。外観にゆがみが残った、走行中振動が出る等、がこれにあたります。
② また、修理を行いその時点では外観・性能に問題がなくとも、将来的に不具合が生ずるおそれが残った場合も、耐久性という性能が低下したといえますので、価値低下分の請求は可能でしょう。
③ では、性能に問題はないが、修理をしたことによって「修復歴」のある車両となってしまった場合はどうでしょうか。
日本での自動車取引では、「修復歴」がある車両は、「修復歴車」として告知され、修復歴のない車両よりも取引価格が低くなりますから、取引価格が低下した部分は、財産としての価値が低下しており、評価損として請求可能と考えられます。
ただし、「修復歴」とは、車体の骨格部分(おおまかに言えば、溶接で組み立てられている部分)に修復があることを言いますから、ボルトを緩めれば取り外せる部分(ボンネットやドアパネル)だけを交換したような修理では、「修復歴車」にはあたりませんので、評価損を請求することは難しいでしょう。
④ 性能に問題もなく、取引価格の低下もないが、単に事故に遭って縁起が悪いといったような場合は、賠償を請求することは難しいといえるでしょう。
4.修理費だけでなく、評価損も請求したいと考える場合には、適切な根拠に基づく相手方との交渉や、場合によっては訴訟も必要です。また、車両の年式、程度によっては、評価損にこだわらず、適切な修理費を請求するほうがよい場合もあります。ぜひ当事務所にご相談ください。
執筆者:山下江法律事務所 小林 幹大 (広島弁護士会所属)