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交通事故で死亡……償いの証としての「慰謝料」とは

山下江法律事務所

 交通事故は、しばしば重大な結果をもたらします。物損や軽微なけがですめばよいのですが、時に人に取り返しのつかない後遺症を残したり、また最悪の場合はその命自体を奪ったりしてしまうこともあります。

 失われた命を、お金で取り戻すことはできません。どれだけお金を積んだとしても、失われた命が戻ることは決してありません。被害者の無念や被害者のご家族の悲しみは癒えることなく残り続けます。
 ただお金で人の命を買うことはできなくても、償いの気持ちを表す方法は「お金」しかないのです。そのため、交通事故で相手を死亡させてしまった場合は、被害者ご家族に対して慰謝料を渡すことになります。

 今回はこの「交通事故で相手を死亡させてしまった場合の慰謝料」について解説していきます。

交通事故で死亡した場合の慰謝料の考え方

 交通事故の被害者となった本人は、加害者に対して慰謝料を要求することができます。これは死亡時であってもけがにとどまった場合であっても同じです。

 交通事故で死亡した場合、加害者側に対して2つの慰謝料を要求することができます。
 1つめは、「ご家族が請求する慰謝料」。そしてもう1つは、「被害者本人が請求する慰謝料」です。

 それぞれ解説していきます。

【ご家族が請求する慰謝料】

 「交通事故で死亡したときの慰謝料」として思い浮かぶのはこちらでしょう。大切な人を失ったご家族が、加害者に対して請求する慰謝料です。家族を失うことによる被害は、単純な「経済的な損失」だけにとどまるものではありません。非常に大きな精神的ショックを受けますし、またこのショックは長く続きます。ご家族に対する謝罪の気持ちとして出される慰謝料だと考えてください。

 ただ、この慰謝料は「血がつながってさえすればだれでも請求できる」というものではありません。
 ご家族が請求する慰謝料は、被害者とご家族の関係が

・被害者自身の父母(実父母でも養父母でも構わない)
・被害者の配偶者(夫を亡くした妻、あるいは妻を亡くした夫)
・子ども(養子や認知済みの子ども。また、まだ生まれていない胎児も請求者として認められる)

に限定されるのが原則です。
 血のつながりがあったとしても兄弟姉妹や祖父母などは、原則として慰謝料を請求することはできません。

【被害者本人に対する慰謝料】

 交通事故では、死亡した本人からも慰謝料を請求することができます。
 「すでに死んでしまったのに慰謝料?」と思う方もいるかもしれません。しかし交通事故においては、「亡くなるまでの間、被害者は精神的な苦痛を受けた」と判断します。そのため、ご家族が受ける精神的苦痛に対してだけでなく、被害者となった本人の精神的苦痛に対しても慰謝料が払われることになるのです。

 ただ、現実的には「すでに死亡してしまった被害者本人」が慰謝料を請求することはできません。そのため被害者から財産を引き継ぐことになる相続人が、慰謝料の請求権をも引継ぎ、加害者に対して慰謝料を請求することになります。

上限が決まっている自賠責保険

 さて、日本では「車を持っている者は、例外なく自賠責保険(自動車損害賠償責任保険。これ以降は『自賠責保険』で統一)に加入しなければならない」と定めています。これは「任意」「努力義務」ではなく、「強制」です。仮に自賠責保険に入っていないあるいは期限切れになっていたりした場合は、1年以下の懲役刑または50万円の罰金が科せられ、かつ免停処分が下されます。

 自賠責保険は、言ってみれば「被害者に対する最低限の補償」をするための制度です。そのため、自賠責保険から支払われる慰謝料の金額は、決して大きくはありません。

 被害者のご家族に対して支払われる慰謝料は、

 請求者が1人……550万円
 請求者が2人……650万円
 請求者が3人以上……750万円

 また、被害者の扶養に入っていた人がいる場合は上記に加えて+200万円が支払われるとしています。

 なお、被害者本人に支払われる慰謝料は400万円と決まっています。これは被害者の社会的地位や年収、性別や年齢などによって変動することはありません。一律で400万円と決まっているのです。

 ちなみに死亡時に支払われるのは、「慰謝料」だけではありません。
 「被害者が生きていれば稼げたであろう金額(逸失利益)」や葬祭費用なども支払われます。ただし

 ・慰謝料
 ・逸失利益
 ・葬儀費

をすべて合わせた金額の上限値は3000万円とさだめられています。なお被害者側に大きな過失があった場合は、減額されることもあります。
 なお、これは自賠責保険から支払われる保険金の上限を示しているだけであり、裁判で認められる死亡慰謝料等はこれを超えることが多いといえます。
 自賠責保険の上限を超える場合は、加害者が負担しなければなりませんが、通常は任意保険に加入しているため、加入している保険から支払われることになります。

任意保険は契約によって異なる

 自賠責保険は車を所有する人全員が加入しなければならないものですが、車を使う人のうちの4人に3人は自賠責保険に加えて「任意保険」にも加入しています。

 自賠責保険で保証できるのは「被害者の人的被害」だけですが、任意保険の場合はこれに加えて「加害者の人的被害」「被害者の物」「加害者の物」なども保証対象とします。

 任意保険の場合、契約プランによって保証内容が変わってきます。ただし被害者への補償に関しては「対人無制限」としているところが多いといえます。このため、加害者も「相手に十分な金額を支払えないのではないか、また加害者として償っていきたいが自分自身の生活が立ち行かなくなるほど慰謝料が重くなるのではないか」と心配する必要はほとんどないといえます。
 裁判になった場合、死亡の慰謝料は数千万円にも及ぶことがあります。対人賠償については無制限としておくことをおすすめします。

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