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勤務中、通勤中の交通事故~労災保険は適用される?

山下江法律事務所

 私たちは「労災保険」というと、「勤務中に負ったけがなどに対して行われる保証である」と考えてしまいがちです。
 しかし実際には、労災保険は「勤務中」以外のときに負ったけがなどでも支給されます。
 今回はその1パターンとして、「通勤中の交通事故」について取り上げていきます。

労災保険とは何か

 「労災保険」とは、「労働保険」のなかに内包される保険のうちの1つです。

 「労働保険」とは、労働者を守るための保険をいいます。
 これは、今回取り上げる「労災保険(正式名称は「労働者災害補償保険」。一般的に労災保険と訳されるため、ここでは労災保険という呼び方に統一します)」と「雇用保険」の2つで成り立っています。雇用保険とは失業したときなどに出されるものであり、生活を守るためのものだといえます(今回は雇用保険については取り上げません)。

 対して労災保険とは、「仕事をしているときにけがや病気を追った場合、その治療費などを保証する制度」だと考えてください。また今回は「けが」について主に取り上げていますが、万が一命を落とした場合は、遺族の生活もこの労災保険によって守られます。

 さてこの「労災保険」には、大きく分けて以下の2つがあります。
 まず1つめは、「業務災害」です。そしてもう1つが「通勤災害」です。
 通勤災害については事項以降で詳しく話していくとして、ここでは「業務災害」についてその概略を説明します。

 業務災害とは、業務に就いているときに起きたけがや病気のことをいいます。たとえば、「工場で働いているときに、機械に挟まれて腕をつぶされた」「3つ離れた部署に行く最中に、廊下に積み重ねてあった備品が崩れてきて転倒、腰を痛めた」などのようなケースがこれに該当します。
 また、ここでポイントとなるのは「病気も保証される」という点です。現在はパワハラなどによって心の調子を崩し加療を必要とする人も出てきていますが、このような場合もまた、仕事が原因とされると判明すれば労災保険の対象となります。

 ただし、労災保険はあくまで「業務に関係しているときに」生じたけがや病気を保証するものです。このため、休憩時間などで、かつ個人の私的な行為だけによるけがの場合は労災保険の対象外と考えるのが原則です。

勤務中に交通事故にあった場合はこうなる

 さて、労災保険は原則として「業務上で生じたけがや病気」に対する保険をいいます。しかし上でも述べたように、「通勤災害」についても保証されます。これについて詳しく解説していきましょう。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響でリモートワークに切り替える……という会社も増えてきていますが、多くの人は、会社に通うために電車や自転車、車などを利用しています。「自宅から会社に向かうとき、あるいは会社から自宅に帰るときに事故などにあった場合、それに関しても労災保険の対象内としよう」とする考え方と制度を、「通勤災害(と、それを保証するための労災保険)」といいます。

 通勤災害と認められた場合は、業務上で起きたけがや病気同様、その生活や治療、あるいは遺族の生活などが労災保険によって保証されます。

 通勤災害のもっとも代表的な例として挙げられるのは、「通勤途中の交通事故」でしょう。

 たとえば会社に向かう道中、歩いていたらいきなり車にはねられて死亡した……などのようなケースは、通勤災害にあたります。また上では「会社と自宅の行き帰り」としましたが、「体調不良で会社を早退して、病院に行った。その帰路で交通事故にあってけがを負った」などのような場合も通勤災害と認められます。

 この「通勤災害」の範囲はかなり幅広く、「会社帰りに夕飯の買い物にスーパーに立ち寄った。その帰りに事故にあった」などのような場合も保証されます。

 ただし、「会社帰りにジムや映画館など、一般的に見て『通勤(とその帰路)とは関係していない』と判断されるような寄り道をして帰った場合」などに関しては、通勤災害と認められないことが多いといえます。
 もっともこれらは個々のケースを見て判断されることになるため、一概に「〇〇ならば絶対に労災保険の対象となり、××ならば絶対に労災保険の対象とならない」と断言することはできません。

通勤中の交通事故でも、労災保険の適用対象となる 

 このように、原則として通勤中の交通事故でも労災保険として認められます。

 また、労災保険の種類は以下の通りです(ここでは主に通勤災害を取り上げるため、「病気」ではなく「けが」としています)。

1.療養補償給付

 けがを負ったときに必要とされるものを現物支給、あるいは療養のための費用を支給する制度のことをいいます。

2.傷害補償給付

 2つに分けられます。1つは、「障害補償一時金」です。これは、8級~14級の障害のときに受け取ることになるものです。56日分~503日分の給付基礎日額の一時金が支給されます。
 もう1つは「障害補償年金」です。これは、1級~7級の障害を負ったときに給付される「年金」です。また、一時金も支払われます。
 障害が重いほど、支払われる額は大きくなります。

3.休業補償給付

 休業特別支給金とあわせて、給付基礎日額の80パーセントが支給されます。ただし、3日以内のけがの場合は支払われません。

4.遺族補償年金

 遺族補償年金を受け取る家族(亡くなった人の収入で生活していた妻や子ども、父母、孫、祖父母や兄弟姉妹。ただし、妻以外に関しては条件がある)がいる場合は、一律300万円が出されます。また、遺族の人数に応じて、補償年金と特別年金が支給されます。
 遺族補償年金を受け取る家族がいない場合は、遺族に対して1000日分の一時金が出されます。
 なお、葬祭費用として、31.5万円+給付基礎日額×30日分が支給されます。

5.傷病年金

 けがを負ってから18か月以上経ってもけがが治っていない場合に支給されます。

6.介護給付

 介護が必要になり、また介護を受けている場合に出されます。

 なおこれ以外にも、検査の給付などが行われることもあります。
 いずれにせよ、通勤途中にけがを負った場合は速やかに会社に報告しましょう。そして労災保険を受けて治療をしていきましょう。金銭的な不安がある状態はストレスとなり、けがの治療を遅らせてしまう可能性もあります。

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