事故を起こしたくて起こす人はいません。しかし事故は、わずかな油断や注意力不足で起きてしまうこともあるものです。
そのようなときにはどうしたらよいのでしょうか。
「物損事故」と「人身事故」で対応には大きな違いがみられるので、この2つの違いを取り上げつつ、ここでは主に「人身事故」に焦点を当てて解説していきます。
物損事故と人身事故の違い
物損事故とは、「人身に損害のない事故」をいいます。たとえば、自分の運転している車がガードレールに衝突してしまったり、ごくごく軽い接触事故で双方にまったくけががなかったりする状態のことをいいます。
対して人身事故とは、人的な被害のある事故をいいます。だれかがけがをしてしまったり、交通事故が原因とする後遺症が残ったり、命を落としたりした場合は人身事故として処理されます。
この2つの違いは、「どのように処理されるか」にも表れてきます。特に大きいのは以下の点です。
1.物損事故の場合、免許証の点数には影響がない
2.物損事故の場合、わざとでなければ刑事罰は科せられない
3.物損事故の場合は、自賠責保険は適用されない
4.人身事故の場合は、賠償金の請求が加害者本人にとどまらないこともある
それぞれ見ていきましょう。
1.物損事故の場合、免許証の点数には影響がない
人身事故の場合、免許証の点数が引かれます。たとえば、相手を死亡させてしまった場合は13点もしくは20点が引かれます。
対して物損事故の場合は、点数は引かれません。
2.物損事故の場合、わざとでなければ刑事罰は科せられない
物損事故の場合、わざと起こしたものでなければ刑事罰は科せられません。「無事故無違反」とは、「刑事罰及び行政処分を受けていない状態」をいうので、「物損事故は起こしたが、無事故無違反である」という理論も成り立ちます。
なお人身事故を起こした場合は、道路交通法違反に問われ、禁錮刑や罰金刑が科せられることもあります。
3.物損事故の場合は、自賠責保険は適用されない
自賠責保険は、車の所有者が絶対に加入しなければならない保険です。人身事故の場合は事故を起こすとこの自賠責保険が適用されますが、物損事故の場合は適用されません。
ただ現状は大多数の人が任意保険に加入していますから、物損事故でも任意保険から支払われることはあります。
なお、人身事故の場合は「自分に過失がないと主張するのであれば、事故を起こした側がそれを証明しなければならない」と定められているのに対し、物損事故の場合は「被害を受けたと主張するのであれば、被害者(壊された物の持ち主など)がそれを証明しなければならない」という違いもあります。
4.人身事故の場合は、賠償金の請求が加害者本人にとどまらないこともある
事故の第一の責任者は、当然運転手です。しかし人身事故の場合、賠償金の請求先が運転手だけにとどまらないこともあります。
たとえば、「運転手はAだが、車の持ち主はBである」「仕事中の人身事故であり、社用車を使っていた」などの場合は、Bや会社側にも賠償金を請求できる可能性があります。
人身事故の被害者になったときに気を付けるべきこと
人身事故の被害者になったら、まず何をすればよいのでしょうか。それについてみていきます。
1.救急車を呼び、病院に行く
2.警察を呼ぶ
3.加害者と現在の状況を確認する
4.実況見分では、自分の主張もする
基本的には1から順番にやっていくことになりますが、けがの程度が非常に軽微な場合は多少順番が前後することもあります。
1.救急車を呼び、病院に行く
けがの程度が重い場合は、ためらわずに救急車を呼びます。また、けがが軽いように思われても、後で痛みが出てくることもあります。必ず病院に行くようにしましょう。
2.警察を呼ぶ~保険会社に連絡をする
けがの状態が軽微に思える場合や、加害者の免許証の点数が少なくなっている場合、また相手が悪質な加害者である場合、警察を呼ばずに処理しようとすることもあります。
しかし一度応じてしまうと、治療費が不払いに終わるなどトラブルが起きる可能性が高くなります。必ず警察を呼びましょう。
そして保険会社にも連絡をします。治療は基本的には加害者の保険を使って行われますが、人身傷害保険などに加入している場合は保険金が支払われるからです。
3.加害者の身元と、現在の状況を確認する
加害者の身元と、現在の状況の確認をします。まずは加害者の住所氏名、電話番号を確認し、この場合は運転免許証を提示させます。ナンバーなども控えておきましょう。
現場の状況も確認し、目撃者がいれば証言をお願いします。
4.実況見分では、自分の主張もする
警察は、到着後実況見分を行います。この際に状況を聞かれることになりますが、しっかりと自分の意見を主張するようにしてください。
人身事故の加害者になったときに気を付けるべきこと
私たちは事故のことを考えるとき、「被害者になっている自分」を想像しても「加害者になった自分」のことはあまり想像しません。しかし「加害者になったときにとるべき行動」を知ることは、時に「被害者になったときにとるべき行動」を知ることよりも重要となります。
1.救急車を呼ぶ~負傷者の救助を行う
2.警察を呼ぶ
3.車の移動などを行い、二次的に起きる事故を予防する
4.被害者の身元と、現在の状況を確認する
5.保険会社に連絡をする
1.救急車を呼ぶ~負傷者の救助を行う
負傷者の救助は、最優先されるべき項目であり、義務であり、人としてとるべき行動だといえます。また救急車も迅速に呼びましょう。
相手のけがの程度が著しく軽微である(あるいはほとんどない)場合であっても、必ず「自分が負担するので、病院に行ってください」と願い出ます。
2.警察を呼ぶ
警察を呼びます。軽微な事故であっても勝手に示談などにはせず、必ず警察を通します。この工程を経ないと、保険金も支払われません。
3.車の移動などを行い、二次的に起きる事故を予防する
「事故が起きていることに気づかずにスピードを出していた車が、事故を起こした車に衝突した」などのようなケースは決して珍しくありません。
車の移動などを行い、このような「二次的に起きる事故」を予防しましょう。
4.被害者の身元と、現在の状況を確認する
被害者の身元と、現在の状況を確認します。
5.保険会社に連絡をする
保険会社に連絡をします。このときには状況をつまびらかに説明します。決して嘘をついたり、自分に都合のいいように改ざんしたりしてはいけません。
人身事故の加害者になった場合も、人として求められる行動(救助を積極的に行い、真剣に謝罪するなど)をとることで、被害者の心にさらに負担を与えることを避けられます。
警察や被害者、保険会社に対して、嘘や保身の話などをしないようにして、真摯に対応していきましょう。