交通事故の加害者となった場合、被害者に対して真摯に謝罪し、被害者が被った精神的・肉体的・経済的な損失をできるかぎり埋める必要があります。また、「示談金」を示し、相手と交渉することも必要になってきます。
今回の記事では、主に「示談金」に注目をして解説していきます。
なお、特に車同士の交通事故の場合、「どちらかだけが完全な被害者であり、どちらかだけが完全な加害者である」と言い切れない場合も多いのですが、便宜上ここでは「被害者と加害者」という表現を使っていきます。
示談金と慰謝料と罰金の違い
交通事故の加害者となった場合、支払うことになる可能性のあるお金として、以下の3つが挙げられます。
- 示談金
- 慰謝料
- 罰金
それぞれ見ていきましょう。
・示談金とは
示談金とは、交通事故の加害者となった人が被害者となった人と話し合いをし、その結果として決まった「被害者に支払うことになるお金」をいいます。
この話し合いは、基本的には加害者が加入している保険会社と、被害者が加入している保険会社の話し合いによって決まります。
被害者のケガが完治(あるいは、これ以上治療しても改善が見込めない状態の「症状固定」となってから)してから決められるもので、
- 治療費
- 休業損害に対する補償
- 被害者側が交通事故によって「本来は得られるはずだったのに、得られなくなった利益(逸失利益)」
- 被害者の受けた精神的な苦痛に対して償うためのお金
などがここに含まれます。
・慰謝料とは
上記で、「被害者が受けた精神的な苦痛に対して償うためのお金」が示談金に含まれるとしました。この「被害者が受けた精神的な苦痛に対して償うためのお金」を、「慰謝料」といいます。「慰謝料」という言葉自体は交通事故以外のときにも使われますが(例:片方に責任のある離婚のときなど)、交通事故の場合は、「示談金に含まれるものの一部である」ということができます。
上でも述べたように、示談金は、「慰謝料や治療費、休業損害に対する補償、逸失利益など」を含むものですから、金額は、示談金>慰謝料となります。
・罰金とは
罰金とは、刑事罰のうちのひとつです。懲役刑や禁固刑などと同じ扱いで、金額によって「罰金」と「科料」に分けられます。罰金は10,000円以上、科料は10,000円未満のときの呼び方です。
罰金は「刑事罰」であるため、ここで支払ったお金は国庫に行くことになります。そのため、被害者の元には行きません。
また罰金は刑事上の責任であるのに対して、慰謝料(示談金)は民事上の責任です。「交通事故を起こしたときに支払うお金」という点では同じですが、この2つはまったく性質が異なるものです。
なお交通事故の内容によっては、罰金が科せられず、懲役刑などが選択されることもあります。
示談を行うことで前科がつきにくくなる
交通事故の加害者となった場合、加害者は下記の3つの責任に問われることになります。
- 行政上の責任(免許証の点数に関わるもの。免許停止処分や免許取り消し処分など)
- 刑事上の責任(上で挙げた、罰金や懲役刑など)
- 民事上の責任(上で挙げた、慰謝料など)
交通事故において、示談金(慰謝料を含む)を払い、示談を成立させることは刑事上の責任を考えるうえでも非常に大きな意味を持ちます。
たとえば交通事故を起こして、相手にケガをさせてしまったと仮定しましょう。「加害者は何も救助を行わず、お金を支払うなどの姿勢も一切見せず、謝罪にも訪れない」という状況と、「加害者は救助に努め、終始真摯な態度で臨み、できるだけのお金を支払う姿勢と謝罪をしている」という状況では、被害者やその家族が加害者側に対して抱く感情は当然変わってきます。刑事上の責任を問うことになる刑事裁判においては、被害者やその家族の処罰感情が非常に重要になってきます。前者の場合は当然、処罰感情が苛烈になると予想されますし、後者の場合は「加害者側はきちんと対応をしてくれている。結果は残念だが重い処罰は望まない」と考える人も多いことでしょう。早期に示談の席を設け、できるかぎりの示談金を提示することで、被害者やその家族の処罰感情は和らぐと考えられます。
この結果として、刑事事件においては不起訴となり、前科がつくのを免れる可能性もあります。
ただし、「示談が成立すれば、必ず不起訴になる」とはいえません。示談が成立したとしても起訴に至る可能性はあります。
また、上でも述べたように、示談金の決定は「受けた傷が完治、あるいは症状が固定した段階」をスタートとします。そのため、大きな事故であり、ケガの完治や症状の固定までに時間がかかってしまった場合、先に交通事故の裁判が終了してしまうことも十分に考えられます。また、交通事故の場合は保険金で支払われることが多いため、軽傷のときなど以外ではこの対応が難しいと考えられます。
示談金(慰謝料)の相場
上でも述べたように、示談金はケースバイケースで異なります。特に「慰謝料」は目に見える形で計算できるものではないため、適正な金額を算出するのは非常に難しいといえるでしょう。交通事故の加害者側の状況(酒酔い運転かなど)によっても変わってきますし、「自賠責保険か、任意保険か、それとも裁判基準か」によっても数字は異なってきます。一番金額が高くなるのは裁判基準ですから、これについてひとつの目安を解説していきます。
・死亡時
一家の大黒柱の場合は2,800万円。母親や配偶者の場合は2,500万円、それ以外のケースでは2,000~2,500万円と判断の基準とされます。
・傷害があった場合
入通院(傷害)慰謝料
入院および通院の期間によって異なり、部位によっても金額が変わってきます。そのほか、治療における苦痛の度合いも考慮される。また後遺症をもたらした場合、その程度によっても異なります。
たとえば、「通院期間1か月だけで完治した」という場合は28万円となります。それに対し、「5か月間入院して、かつ通院期間が15か月におよんだ」という場合は286万円となります。
後遺障害慰謝料
後遺症が残り、後遺障害について等級認定された場合は、等級に応じて、110万円(14級。頸椎~腰椎の捻挫など)~2,800万円(1級、単身者の植物状態など)と判断されることが多いといえるでしょう。
交通事故を起こしてしまった場合、被害者が受ける損失は大きいものです。示談金(慰謝料)を払っても「事故を起こす前」に戻すことはできません。しかし示談金(慰謝料)が、被害者の精神と生活を支え、家族の精神と生活を支えるための一助となることは確かです。